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【恐いい話】オヤジの最後の願い

      2018/09/07

全然恐怖話じゃないけど、まあこんなこともあったということで。

一昨年の話。

父が血の病気になり、入院しました。

わたしは、広告の仕事をしており、自分のマンションにさえ毎日帰れないほどの忙しさで、父の見舞にあまりいけず、母親にばかり迷惑をかけていたのです。

あるとき、母親から仕事先に連絡がありました。

「もう、今夜だから」

と言われ、愕然として、仕事をほうって駆けつけました。

父はそのときもう、昏睡状態でした。

手を握り、親父と呼びましたが、返事をしてくれませんでした。

翌朝、父は逝きました。

皆が悲しみに暮れている中、自分だけはしっかりとしようと思い、わたしは親戚をとりまとめ、とりあえず通夜と葬式の段取りを始めました。

仕事ではプロデューサーなので、こういうことには慣れている。

通夜だからといってイベントみたいなもんだと、虚勢を張っていたんでしょう。

叔父などに

「お前、大丈夫か」

といわれても、

「慣れてるんだよ」

と生意気なことを言った。

とにかく、涙だけは見せるものかと、淡々と葬儀屋との段取りを進めたかった。

通夜には、友人も、前の恋人も来てくれて、それなりに嬉しかった。

だけど、母親と姉は疲弊していたから、俺が泣いたらだめだ、と思って、泣かなかった。

通夜が終わり、実家に帰り、お嫁に行った姉と、いっぷくしました。

わたしは疲れていたので、お風呂に入りました。

ゆっくりつかって、とりあえずまあ、半分終わったし明日は楽だよな、まあ、いいかなんて思って、じっくり暖まり、出たのです。

するとすこしたって、お蕎麦屋さんがやってきました。

どうやら姉が頼んだらしいです。

お蕎麦屋さんがもってきたのは、もりそば、たぬきうどん、鴨南蛮そばが二つ、の計4人前。

姉はわたしの前に鴨南蛮をおきました。

「なにこれ?」

俺は聞きました。




「お前それでしょ」

と姉が言う。

ん?確かに俺は鴨南蛮好きだけど、出前とるなら、聞いてくれたっていいじゃないか。

「なんだよ、声かけて聞いてくれよ、ひとことぐらい」

「声かけたじゃない!あんたが言ったんだよ、鴨南蛮がいいって」

俺はそんなこと聞いていない。

些細なことで喧嘩になりました。

すると、母親が止めに入りました。

父は飲んべえで遊び人でどうしようもなかったんですが、入院してからは当然控えねばなりませんでした。

そんな父の唯一の楽しみは、時々先生の許可を貰って帰ってきたときに、近所のこの蕎麦屋に出前で頼む、「鴨南蛮そば」を食べることだったらしいのです。

思い出しました。

親父は食い意地もはっていて、わたしが食べ盛りのガキの頃でも、わたしのおかずを奪ってつまみにするほどの大食漢だった。

きっと父は、今も、俺の声を騙って、姉に食べたいものを言ったんでしょう。

「鴨南蛮がいい」

って。

姉は母に聞いて、父の為にも「鴨南蛮そば」をとった。

だから、二つ重なったんだと。

姉は姉で、やっぱ男同士の親子、好みも似るもんね、と不思議とも思わなかったらしい。

なんだか、それを聞いて、おかしくてしょうがなかった。

親父、相変わらずだな、おい。

母親が言いました。

「お父さん、それが食べたくて食べたくて、しょうがなかったんだよ」

俺はゲラゲラ笑って、じゃあ、親父の分まで食ってやる!と、猛然と食べました。

先生に内緒で食べる、油が浮いた鴨南蛮の、濃いつゆの味。

病床の父には、たまらないごちそうだったんだろう。

遊んで遊んで、母親泣かせてた親父が、病床ではしおらしくなって。

食べたくて、しょうがなかった。

生きたくてしょうがなかったんだ。

俺は、なぜか、嗚咽していました。

声をあげて泣いていた。

母親がいいました。

「それでいいんだ、お前が泣かなくて、どうする」

と。





 

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