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【怖い話】交霊するためにカコイサマを駆使した霊媒師に起こった恐怖

   

既出だったらすまんが、この話が結構怖かった。

アチメ オオオオ オオオオ オオオオ
天地ニキ揺ラカスハ サ揺ユラカス 神ワカモ 神コソハ キネキコウ キ揺ラナラハ
アチメ オオオオ オオオオ オオオオ
石ノ上 布瑠社ノ 太刀モガト 願フ其ノ児ニ 其ノ奉ル
アチメ オオオ オオオ オオオ
猟夫ラガ 持タ木ノ真弓 奥山ニ 御狩スラシモ 弓ノ弭見ユ
アチメ オオオ オオオ オオオ
上リマス豊日霎カ 御魂欲ス 本ハ金矛 末ハ木矛
アチメ オオオ オオオ オオオ
三輪山ニ アリタテルチカサヲ 今栄エデハ 何時カ栄へム
アチメ オオオ オオオ オオオ
吾妹子ガ、穴師ノ山ノ山ノ山モト 人も見ルカニ 深山カ縵為ヨ
アチメ オオオ オオオ オオオ
魂筥ニ 木綿取リシデワ 魂チトラセヨ 御魂上リ 魂上リマシシ神ハ 今ゾ来マセル
アチメ オオオ オオオ オオオ
御魂ミニ 去マシシ神ハ 今ゾ来マセル 魂筥持チテ 去リクルシ御魂 魂返シスナ

『鎮魂歌(年中行事秘抄)』

概要

1992年7月7日。火曜日。この日、吉野さん一家は一人娘の美咲ちゃんの誕生日を前日に控え、家族三人で近所の商業施設、つかしん(西武百貨店)に買い物に出かけていた。

父親の義弘さんは当日午後から半休を取っており、会社帰りに自宅の最寄り駅である阪急稲野駅で妻の美幸さん、娘の美咲ちゃんと合流、その後、家族三人でつかしん内の飲食店で昼食を食べ、美咲ちゃんの誕生日プレゼントを買って帰路についた。

事件は、その道中で起こった。

午後四時ごろ、吉野さん一家は御願塚古墳という小さな古墳の前を通りかかる。

御願塚古墳とは吉野さん宅の南東にある、全長約50メートル、高さ約七メートルほどの比較的小さな古墳である。

周囲に壕を巡らせた小高い山の頂上には小さな広場があり、そこには南神社という小さなお社が祭られている。

その神社に通じる鳥居の前に差しかかったとき、突然美咲ちゃんが足を止め

「お参りがしたい」

と言い出した。

吉野さん夫婦は当初それを美咲ちゃんの何気ない気まぐれだと思い取り合わなかったが、美咲ちゃんがどうしてもと言うことを聞かず(義弘さんによれば、それまでに一度も見たことのないくらいの必死さで)その場を動こうとしないので、仕方なくお賽銭にと五円玉を持たせて、古墳の上にある神社に行くことを許した。

このとき吉野さん夫妻はふもとの鳥居の外で待っていたが、その場所から神社までの石段は視界が開けており、距離もたかだか10メートル足らずである。

そして、吉野さん夫婦は、たしかに美咲ちゃんが頂上に上ったのを確認している。

五分ほどたった後、戻ってこない美咲ちゃんを心配した義弘さんは、美咲ちゃんを探して頂上への石段を登った。

大人の足でなら急ぎ足で10秒といったところだろうか。

頂上の社殿がある広場についた義弘さんは美咲ちゃんを探したが、そこには美咲ちゃんの姿はなかった。

広場は直径約15メートルの円形で、社殿のほかには何もない。

義弘さんは美咲ちゃんの名前を何度か呼んでみたが、返事はなかった。

頂上までの間には、古墳を周回する周遊路があり、頂上からぐるりと見おろせたが、そこにも人の姿や気配はなかったという。

不安に駆られた義弘さんだったが、石段を使わずに中腹の周遊路に下りることも不可能ではないため、入れ違いになった可能性を考えていったん妻の美幸さんの待つ鳥居に戻ってみることにした。

その途中で一応周遊路をぐるりと一周し、どこかで転んで怪我をしているのではないかと注意深く周囲を探したが、やはり美咲ちゃんの姿はなかった。

仕方なく鳥居に戻った義弘さんだったが、そこには美幸さんが不安そうな顔があるばかりで、やはり美咲ちゃんの姿はなかった。

古墳全体は雑木に覆われてはいるものの、その間隔はまばらで視界は比較的ひらけている。

美幸さんも義弘さんを待つ間中ずっと美咲ちゃんを探していたが、美咲ちゃんの姿は見ていないという。

美幸さんと合流した義弘さんは、誰も石段を降りてきていないことを確認すると、再び頂上の社殿へと向かった。

もう残る場所は、社殿の中しか考えられなかったからだ。

古墳の周囲を囲むお濠は比較的小さいものの、その幅は約8メートル。

狭いところ(鳥居付近)で5もメートル弱、広いところでは11メートルにもなる。

とても6歳の女の子が渡れるような長さではないし、当然柵も設置されていた。

美咲ちゃんは、どう考えてもこの古墳から外に出ていない。

出られるはずがなかったのだ。

社殿へと向かった吉野さん夫妻は、なりふり構わずお社の戸に手をかけた。

が、その戸は頑丈に施錠されており、開くことはなかった。

内側を覗いてみても、人間がいるような気配はなかったという。

夫妻が目を離したわずか五分の間に、美咲ちゃんの姿はまさに煙のように消えてしまったのだった。

午後四時二十五分。

稲野駅前交番に吉野さん夫妻は駆け込む。

警察は失踪の可能性と古墳の周囲のお濠に転落した可能性の両面から捜索をしたが、美咲ちゃんは見つからなかった。

警察犬も広場から出ようとせず、臭いを追えなかった。

営利誘拐の可能性も考えられたが、犯人からの要求がなかったため警察は失踪事件として捜査している。

翌日の午前十時半ごろ、吉野さん宅に謎の電話がかかっている。

電話を受けたのは妻の美幸さんだった。

電話の主は舌足らずな女性で、年齢までは分からないが、娘ではないように思ったと美幸さんは語っている。

警察は、この電話の発信者の特定には至っていない。

補追

実際に足を運ぶと、現場は想像よりもはるかに小規模で、高さは7メートルとのことだが、実際の感覚ではもうすこし低く感じられる。

子どもの足でも頂上まで30秒はかからないだろう。

生い茂る樹も手入れがなされていて、仮に美咲ちゃんがいたずら心から一時的にどこかに隠れたとしても、その後も両親から隠れ続けることは不可能に思えた。

墳頂部の広場には社殿以外に何もなく、木の一本すらも立っていない。

社殿は広場の南西隅に建っていて東側は開けていた。

社殿の裏側も整然としていて、とくに隠れられるような場所は見当たらない。

社殿には金属製の戸がついており、社殿自体もそう古いものではなく、全体的にがっしりとした作りになっている。

内部は暗く確認できなかったが、きっちりと施錠されており大人でも進入は不可能だろう。

周遊路にも降りてみたが、上から見たときと同じく、意外にも視界は良い。

木立に遮られていても、人がいれば必ず分かると断言できる。

また、土を踏みしめる音や落ち葉や草を踏む音を立てずに歩くことも、子供には困難だろう。

古墳入り口の濠にかかる木作りの橋も、踏むと思った以上に大きく軋み、これはある程度遠くにいても聞こえる。

両親の耳にこれが聞こえなかったことは考えにくい。

周囲を囲む濠の幅は約5メートルから10メートル。

もっとも狭い場所であっても、飛び越えることは大人でも不可能だろう。

水面は淀んでいて深さは分からないが、子どもが短時間でこれを渡ることも、到底不可能に思われた。

古墳の入り口(鳥居正面)は県道336号線に面しており、交通量は少なくはないが人通りはまばらだった。

美咲ちゃんの失踪が誘拐によるものだとすれば、車を横付けできるこの場所は犯人にとって好都合だったと言えるが、失踪当時は鳥居の前に母親の美幸さんがずっと立っており、不審な車や人影は見ていないという。

古墳から美咲ちゃんが出て行くには正面の鳥居を通らざるを得ないことを考えれば、車による連れ去りの可能性は低いだろう。

なお、古墳の裏手は入り組んだ住宅地になっていて、細い生活道路に抜ける路地が東西に二本あるが、こちら側は県道側の道路よりも主婦や小学生などの通行人が多く、美咲ちゃんがどうにかして濠を越えられたと仮定しても、やはりこちらからどこかに出て行った可能性は低いように思われる。

御願塚古墳には、1991年頃から浮浪者が住んでいたという噂がある。

だが、実際に古墳に住んでいたのかどうか、ということに関しては疑問の余地が残る。

実際の目撃証言が多数あることから、御願塚・稲野近辺に浮浪者がいたことは確かだが、実際に寝起きしていた場所は別にあったと思われる。

古墳には雨風をしのげる場所がないからだ。

浮浪者の風体については誰も記憶しておらず、ただ古墳の周遊路でニワトリを飼っていたということだけは皆が覚えていた。

この浮浪者はある時期を境にぱったりと姿を消しており、それと前後して吉野美咲ちゃん失踪事件が起きていることから容疑者ではないかとも目されているが、それは単に古墳への警察の出入りが多くなったために居場所を失っただけだろう。

事件との因果関係は薄いと思われる。

美咲ちゃん失踪の翌日に吉野家には一本の奇妙な電話がかかっている。

電話を受けたのは妻の美幸さんだった。電話の主は美幸さんが何か言う前に話し始め、不思議なイントネーションの言葉で意味の分からないことを一方的に話し、最後に

「もしもし」

と告げて電話を切った。

こちらからの問いかけにも一切応答しなかったという。

警察ではこの謎の電話の主を探したが、発信者の特定には至っていない。

この時吉野家では、美幸さんが電話を受けている最中に玄関がどんどんと叩かれた。

インターホンを鳴らせば済むところをわざわざ門扉を勝手に開けて玄関先まで入り、直接戸を叩くというのもおかしな話ではあるのだが、ともかくこの時祖母の絹江さんが応対に出ている。

絹江さんは戸が叩かれたあと間も無く戸を開けているが、そこには誰もおらず、1メートル先の門扉もきっちり閉まっており、人が急いで隠れたような気配もなかったと、このとき美幸さんに話している。

なお、本件との因果関係は定かではないが、絹江さんはこの日の夜半に突然倒れ、そのまま近畿中央病院に搬送、脳溢血による下肢機能全廃と失語症と診断された。

そして一週間後の7月16日に、治療の甲斐なく死亡している。

奇妙な電話は二年後、三年後の誕生日にもかかってきているが、義弘さんも美幸さんもかたくなにその内容を伏せ続けている。

霊媒

失踪から一ヶ月がたった後、吉野家の母方の親族(美幸さんの叔母)を通じて、霊媒と名乗る女が現れている。

川上喜代子と名乗るこの女は、なんでも失せ物探しや未来視を得意とするらしく、霊魂を下ろして会話をし、彼らの知恵を借りるのだという。

その方法は「こっくりさん」によく似ていて、白い紙に五十音のひらがなと、1~9までの数字、はいといいえ、霊魂を呼び込むための入り口の役割を果たす鳥居を書いたものを用いて行われる。

「こっくりさん」とは、美咲ちゃんが失踪した当時、世間で爆発的に流行した交霊術の一種であり、漢字では狐狗狸とも書く。西洋のテーブルターニングという交霊術に由来するものだが、実際はオートマティスムによる自動筆記や参加者の意思で動いている場合が大半である。しばしば感応精神病や集団催眠によるパニックを引き起こし、社会現象にもなった。

喜代子の交霊術が「こっくりさん」と異なるのは、「こっくりさん」がその場にいる不特定な何者かに呼びかけるのに対して、そこにいるはずの特定の霊魂に呼びかけて行われることである。

喜代子が言うには通常の交霊、いわゆる「こっくりさん」では、動物霊と呼ばれる「人の魂のかたちを保てず動物に成り下がった」対話不能の霊を降ろしてしまう恐れがあるという。

そうした場合には守るべき手順も意味をなさず、当然に求める答えも得られない。

動物霊とは人間の霊から理性が抜け落ち、動物的な本能、あるいは現世への強い執着のみが増大したものだからである。

執着の源が生命である場合は命や肉体をとられる恐れもあるという。

また、「こっくりさん」では交霊に10円玉などの硬貨を用いるのに対し、喜代子の交霊術では将棋の駒くらいの大きさの独自の木札を用いる。

直径が3センチほどの丸い板に、「人」という漢字が六つ輪を作るようにならんで書かれており、六芒星を形作っている。

作法としては初めに術者がどれかの「人」に指を置き、それ以外の参加者は残りの「人」のどこかに、等間隔に木札を囲むようにして指を置いていく。

川上喜代子を吉野家に呼び寄せたのは、前述の吉野美幸の叔母、結城フクであった。

結城フクは川上喜代子の霊能に心酔しており、何度も吉野家に手紙をよこしては霊媒を勧めている。

美幸も当初は取り合わなかったが、一向に美咲ちゃんが見つかる気配も無いまま月日が過ぎていくことに耐えかねたのか、或いは藁にもすがりたい気持ちだったのか、とにかく結城フクの勧めに根負けする形で、ちょうど盆の半ばである八月十四日に(この日時は川上側からの提案であったと言われる)吉野家で交霊会は行われた。

川上喜代子は岡山県和気郡の生まれとなっているが、これは厳密には正しくない。

喜代子は物心付くか付かないかの頃に身売りされ、和気の川上家に引き取られた。

喜代子は七つになるまで愚鈍で感情に乏しい白痴のような子であったが、この歳を境に大層利発になり家族を驚かせた。

その一方で白昼に神懸りに陥るようになり、しばしば家族や村民の失せ物を見つけて見せ、怪我や病気などの凶事を言い当てた。

この川上と結城は遠縁にあたるが、両家には親密な交流があった。

川上の家が近隣の家と果樹園の二重譲渡で揉めたときに、間に入って収めたのが結城であった。

このことが縁で交流を深めた両家であったが、今度は結城の家に問題が持ち上がる。

洋酒の工場を建てるのに土地と資金を出さないかと持ちかける山師が頻繁に家に出入りし、実質的な意味での家長である祖父の勘助は首を縦に振る寸前であったのだ。

この時喜代子は持ち前の神通力を発揮し、結城の家の没落を予言、返事を一週間保留させたがその間に件の山師は別件での詐欺容疑で警察に逮捕され、結城の家は危うく難を逃れたといういきさつがある。

この時フクは喜代子の霊媒を間近で目撃し、その不可思議な力の虜になってしまった。

フクに言わせれば喜代子が霊魂を降ろすときには金色の光背が見えるという。

フクは日常生活には支障がない程度には健常であったが、統合失調症と思しき言動が多数見られた。

そのためフクの証言による喜代子の霊験は眉唾といわざるを得ないが、喜代子の行う交霊には確かに現実には説明のつかないところも多くあり、結論は未だ出ていない。

交霊

「ほんまはこんなこと頼める義理じゃあないんですが、今日この話をするんは、多少の罪滅ぼしと、亡うなったひとの供養になればと思うとるんです。

美幸さんには特にひでえことをした思うとるんで、できればほんまのことを誰かに伝えてあげてほしい思います。

それではどうか宜しゅうお願いします。

あれがあったんは一九九二年の、八月の十四日のことじゃった思います。大きい忌み日を避けるんは邪魔が入らんようことじゃ言うとりましたけえ確かじゃ思います。

場所は美幸さんとこの二階の子供部屋で、時間は五時を少しまわっとったでしょうか。

私は世話人いうことで、本来なら美幸さんと川上さんの間に入られとったフクさんが来ればええんですけど、あの人は満足に読み書きができんのんで、代わりに私に行っちゃくれんかいうことになって、私も川上さんとは知らん間柄じゃあなかったこともあって、特になんのあれもなく、旅行みてえなもんじゃ言われてつい受けてしもうたんです。

まさかあがあなことになるとは思わんで。

広島の駅から新幹線に乗って新大阪についたあと国鉄に乗り継いで、駅からタクシーを呼んでもろうとったのに乗り込んで、美幸さんとこのお宅へ伺うたんです。

ついたんはまだ日が高いうちでしたけえ、これから支度したらちょうどええ頃合いじゃあいうてお話をしたんを覚えとります。

美幸さんのお宅についてから、まず簡単に挨拶を済ませました。

家ん中は真っ暗でした。

饐えたような臭いがしとって、旦那さんはもう随分と参っとってでしたけど、なんとか気を張っておられたようでした。

美幸さんのほうは旦那さんと違ってもう限界じゃいう感じで、ほとんど喋りもせんで、目もうつろで。

私と川上さんは二階の美咲ちゃんの部屋に案内されて、部屋に入ると川上さんが部屋の中を見て回られて『美咲ちゃんの大切なもの、なるべく長う使うとるものをひとつ貸してください』言うちゃったんです。

そしたら美幸さんが『美咲が大切にしているぬいぐるみです』言うて、それを川上さんに渡されて、それから私と川上さんで交霊会の支度を始めました。

まず、部屋の中央に下から卓袱台を運びました。

その上に持ってきた蝋燭を立てて、私らみんなでお神酒をいただいて、塩をまいて、川上さんが短いお経みたいなのを唱えられてから『お父さんお母さんお待たせしました、いまから美咲ちゃんをこの部屋に呼びます』言われました。

川上さんは持ってきた包みん中から、魂を降ろすんに使うとる板を取り出して、卓袱台の上に置かれました。

板には真っ赤な鳥居と、はいといいえ、あとはあいうえおかきくけこいう平仮名、それに0から9までの数字、それらが彫りこまれとってでして、そこに川上さんがいつも使うとる、カコイサマいうやつを、ご存知ですか、それを置かれてですね、川上さんと旦那さんと美幸さんと、三人とでそれに指を添えられて『ぜってえ指を離さんといてください』言うて川上さんが説明しておられました。

私は川上さんの言うちゃることを帳面に記録する係ですけえ、その間ずっと鉛筆をもって横で待機しとったんですが、そのうちに川上さんが言われました。

『たいへん長うお待たせしました。お父さん、お母さん、いまから美幸ちゃんを降ろしますけえ、美咲ちゃんのことを心でじっと念じてください。できるだけ楽しいことを思い出して、美咲ちゃんの顔をはっきりと心に映してください』いうて。

ほうで川上さんは美咲ちゃんに呼びかけるような言葉を呟き始めて、美咲ちゃん、美咲ちゃん、言うて、なんとも居た堪れん気持ちになったのをよう覚えてます。

あのカコイサマいうんは不思議なもんで、あれはほんまにひとりでに動きおるんです。

私も実際信じとらんかったですけど、ありゃあそうとしか思えんのです。

じゃけ川上さんに聞いてみたことがあるんですね、一度。

『なしてありゃああなあなことになるんか』いうて。

ほしたら川上さんは『あれは入り口なんじゃ』言うちゃられました。

人の魂いうんは寂しゅうて仕方ないけ、あったけえところを見つけて入りてえんじゃ、あのカコイサマにはお地蔵さんがおられて、それに誘われてするすると魂が入られるんじゃ言うて。

そういうのは魂のほうも頭で考えとるんじゃのうて、電燈に蛾が集まるみたいな、自然なもんらしいです。

川上さんが美咲ちゃん美咲ちゃん言うて呼びかけ始めてから五分くらいでしょうか。

突然旦那さんと美幸さんが身体をびくっと震わして、えろう何かに驚かれたんは、カコイサマが動かれたんじゃ思います。

川上さんはふうっと長え息をひとつ吐かれて『美咲ちゃんがきとられますよ』て言われました。

そっから部屋の空気が全然違うたんは、ただ横に座っとっただけの私にもはっきり分かりました。

どういうんですかね、部屋の温度は寒いのに、身体は妙に暑苦しゅうて汗が滲んでくるような、いうんですか。

蝋燭の炎の上のところだけが長あく横になびいて、気持ち悪かったんを覚えとります。

質問は、最初ん頃は川上さんも美咲ちゃんに交霊のやり方を教えんといけんのんで、みやすい質問を何個かなさっとった思います。

歳はいくつか。

名前は何か。

男か女か。

美咲ちゃんは順調に答えとってで、私もこれは成功じゃ思いました。

ほいで、いよいよこの後ですよ。

こっからは美咲ちゃんが生きとるんか死んどるんか、今どこにおるんか、それを聞き出さんといけんいうことで。

川上さんも言うとられました。

おそらく子供相手じゃあええがあいかんじゃろう、て。

子供いうんは生きとるんでもろくに聞きゃあせんのに、まして魂じゃあまともに聞きゃあせんじゃろう言うて、私も同感じゃ思うとりました。

事実あがあなことになって、ほんとうに手には負えんもんじゃと思い知らされて。

こがあなことは滅多に言えんですが、私も川上さんも用心が足らんかったんです。

何がほんまかはそりゃあ分からんですけど、美咲ちゃんがとられたんは人攫いじゃとか、土地に住んどる神さんじゃとか、そげなもんじゃあねえのは確かです。

川上さんは偉え人じゃけど見える人じゃあなかった。

それで判断を誤られたんです。

始まってしばらくは順調に進んどるように思うとりました。

なにが見えるか、いうて聞いたらお母さんじゃ言うたりして。

ええがにいっとる思いました。

でも、途中からなんか変じゃ思うたんです。

どこが変じゃいうのは言えんのですが、たしか、今どこにおるんかいうようなことを聞いたら、美咲ちゃんは、いいえ、言うたんです。

このいいえいう答えは意味をなしちゃおらんでしょう。

ほうじゃけ川上さんも、いいえいうんはどういう意味か、いうて改めて聞いちゃったんです。

ほしたら美咲ちゃんは、今度はうしろじゃ言うんです。

うしろ。

私も含めてみな背中をあらためんではおれんかったですね。

例えなんもおらんじゃろうと分かっとっても、ああいう言われ方は恐ろしゅう感じますけ、私もなんとなくぞおっとして、川上さんもこのままじゃと危険じゃ思われたんでしょう。

改めて旦那さんと美幸さんに『ええですか、何ぞ見ても取り乱さんでください、指い離さんでくださいよ』言うて念を押しちゃって、もうそろそろ日が落ちよってじゃ言うて、川上さんは私に、部屋の電気点けてくれんかって、私が立ち上がったそん時です。

ぱしっ、いう音がして

電球のたまの中で火花が飛んだんです。

蝋燭の火いも急にゆらゆらし始めて、カコイサマが質問もせんのに勝手に動き出して、順に、い、た、い、く、び、いうて動いたところで蝋燭の火も消えてしもうて。

あとは日が落ちた真っ暗ん中で、カコイサマが動き続けとる、木の擦れる音だけがしばらく続いとって、わしらにゃあそれが何を言うとるか見えんのんじゃけど、もう恐ろしいことを言うとるんじゃいうのは分かるでしょう。

川上さんはもう必死んなって

「美咲ちゃん、もうええけ、美咲ちゃん、もう帰ってもええけ」

言うて。

私も怖うてたまらんで般若心経一心に唱えおったんですが、突然耳鳴りがきーんとして、ぴしっ言うてですね、カコイサマが真っ二つに割れんさって、未だに忘れんですよ、それと同時くらいに美幸さんが物凄え甲高い、笛を吹いたみたいな悲鳴を上げんさって、そりゃあもう、あげな小せえ体のどっから出おるんかいうような、家が震えるくらいのえれえ悲鳴だったんですから、もうみんな儀式どころじゃないですよ。

急いで美幸さん廊下に引っ張り出して、はよう救急車じゃ言うて、美幸さんは白目剥いて、泡吹いてがくがく痙攣しておられました。

その後はもうどげえもならんですよ。

儀式も続けられんし、わしらも身の置き所がない。

病院まで一緒に付き添うたんですが、旦那さんがそりゃあもう凄え形相でわしらのことを睨みつけてから『あんたらのせいで美幸まであげえなって、悪りいがもう帰ってくれ』言うちゃって、そう言われたら私らもどうもできんけえ、荷物だけ片付けに上がらしてもろうてから、挨拶もそこそこに引き上げたんです。

それが当日のことでした。

ほうで、この話はこれで終りじゃあないんです。

後日、川上さんがうちに来ちゃって、こないだの件で話があるんじゃ言うて。

私はええですよ言うたものの川上さんもずいぶん辛えじゃろう思うて黙りこんどったら、川上さんがこう言うちゃったんです。

『ありゃあえれえ家じゃ、あがあな家じゃ知っとったらわしゃあ関わらんかった』言うて。

何事か思うでしょう。

それでどういうことですか言うたら、川上さんが壊れたカコイサマを出してきちゃって、『これを見てみんさい』いうけえ、私見してもろうたんです。

そしたらですね、あん時は気付かんかったんですが、明らかに変なんですね。

普通は板いうんは、折れるときは木目に沿って折れるもんじゃ思うんですが、それが木目と違う方向に無理やり折られとるんです。

折られたいうか、真ん中から割られたいうか、裂かれたいうんか、とにかくありゃあ人間業じゃあない思いましたね。

そんで川上さんも『こがな真似そうそうでけん、あすこにはわしらの思うたよりずうっと恐ろしいもんがおったんじゃ、あんとき降りてきとったんは確かに美咲ちゃんじゃったはずじゃ思うけど、それだけじゃあなかったようにも思う』いうて。

どういうことね言うたら川上さん、あの電球が切れたときがあったじゃろいうて、あったあった言うたら『あんとき私見たんよ、部屋が真っ暗んなる前、火花が飛んだとき、美幸さんの首を締めとる美咲ちゃんをはっきり見たんよ』言うて。

じゃけえ私言うたんです。

『川上さん、それがほんまじゃとしても、そりゃあ首を締めとったんじゃなくて、おぶさっとったんじゃないですか』って。

子供が親の首い締めるなんて普通考えられんで、川上さんの見間違いでしょう言うて。

ほしたらそうじゃないんじゃて川上さんは言うんですよ。

『そういう子供が親に甘えとるようなふうじゃない、そりゃあもう物凄い形相で、声は聞こえんのんじゃけど、もう気がちごうたように泣き叫んどるんがはっきり分かったんじゃけえ、ありゃああの母親には表立っては言えんことが何かあるんで』言うて。

私も川上さんの言うちゃることが、そこでぴんときたんです。

つまり、あがあな神隠しいうようなもんは実際にあるわけはない、いうわけでしょう。

いやね、人の魂を降ろして飯を食うとるようなもんが何を言うかと思われるでしょうが、そりゃあ話が別じゃろう思いますよ、私は。

人が死んで魂になるいうんはあっても、肉体のある人が煙みたいに消えるいうんは、道理が通らんです。

人一人が消えるいうんはそりゃあえれえことなんで、そげえなことはほんまの神さんにだって難しい思いますよ。

じゃけえ、私はこう思うとるんです。

美咲ちゃんは、あの家ん中で殺されとる。

そんで、どっか人目のない山ん中にでも運ばれて埋められとる。

じゃけえ、あがあなふうに美幸さんに祟りおるんでしょう。

美幸さんはあれっきり、もうまともに話もできんようになって、一日中わけのわからんことをぶつぶつ呟いとるいうことです。

日に二度ほど我に返ってから、美咲、美咲、いうて泣きおるいう話を聞いたらどうにも不憫で、私もどうにかしてあげたいとは思うんですが、もうどがあもできんのです。

川上さんも参られとってで。

世の中には明るみに出さんほうがええこともあるんじゃ思うとなんともやりきれんですが、この話だけはしとかんといけんような気がして、別にこれでどうこういうつもりもありゃあせんですけど、川上さんももうあがあなったら駄目かも知れんけえ、私の口が利けるうちにお話ししおこうと思うたいうことです。

誰であれ、ほんまの犯人が見つかるとええですね。美咲ちゃんの魂が安らかに眠れるように、私も祈うとります。」




談話1

川上さんは『もう終りじゃ、殺したんはわしじゃ、殺したんはわしじゃ』言うて随分参っとったけえ『もう気にしんさんな』言うてとりあえず寝かしたんじゃけど、一晩たってみたらもうおらんようになっとって皆なたまげてもうて、どこに行ったんじゃろういうて皆なで探したら、裏の井戸に身を投げとったんじゃ。

最初に見つけたんは駐在さんじゃった思うけど、そりゃあもうがたがた震えて『わしゃあこがあな惨い死体は見たことがない』言うて近づきもせんけえ、吉田さんが『そがいなことでどうするんじゃ』言うて代わりに見に行きんさったんじゃけえど、これも飛んで帰ってきて『川上さんはどうせもうだめじゃ、あがあなもん見んほうがええ』言うて。

何を見たんじゃいうたら『真っ黒い人が底におって、それが川上さんの曲がった首をひねくり回して、その首とわしゃあ目が合うたんじゃ』言うて。

そがあ言うても誰も信じられんし、何より引き上げんことにはやれんけえ、皆なで連れ立って川上さんを引き上げに行ったんよ。

ほしたらこれがたまげたことにほんまなんよ。

井戸の底に真っ黒い人影が座りこんどって、川上さんの首を捻り上げて、その目が恨めしそうにこっちを見おるんじゃけえ。

皆な飛び上がって逃げて、ありゃあまともじゃあねえで言うて、もういよいよ誰も近づかんのんじゃけえ。

わしもあがあな怖い思いしたんは生まれて初めてじゃ。

ほうじゃ言うても、そのまま放っとくわけにもいかんし、あれが表に出てきても困るけえ、もう川上さんには悪いけど閉めたほうがええじゃろう言うて、皆なでコンクリの板転がして、井戸の中見んようにそおっと蓋をして、ぎょうさん石のせてその日は寝たんじゃ。

ほんで怖いのはこっからなんよ。

その日の晩に三次の春子さんのとこから電話がかかってきて、出てみたら血相変えて『あんたとこの村だいじょうぶなんね?』言うからいったいどうしたんか言うたら春子さんが『いま玄関に川上さんがきちゃってね、美恵子姉さんがえらい大事故をして重態じゃ』言うんよ、って。

でも川上さんはもう亡くなったんで言うたら、おばちゃんえらい声で悲鳴上げて受話器放り出して、しばらく後に聞いてみたら、玄関が血だらけじゃ言うんよ。

ほいでも別に誰も怪我しとらんし、誰の血か分からん言うて、いちおう警察にも来てもらったけど怖くて寝られん言うて、怖くて寝られんのんはこっちよ。

村の家みんな叩き起こして、いまこれこれこういう電話があってこう言うちゃった言うて、話し合うた結果、下野の三郎さんの家に嫁いできちゃった美代子さんのお兄さん、牛窓の徹さんいう人がお寺をやっとる言うて、それでお祓いしてもろうちゃったらどうかいう話になって、さっそく電話したら、出た瞬間に向うがこっちから何か言う前にどないしちゃったんですか言うて、聞いてみたら電話口から煙がもうもう出おる、いうて。

しかもこっちが話しとるすぐ横で、誰かがはあはあ息をしとる言うて。

もう怖あて怖あて。

それで何とかならんですか言うたら『事情はともかく今すぐ行くけえ待っとってください』言うてくれんさって、皆なこれで安心じゃ思うとったら徹さんが『ちなみに誰が亡うなったんですか』言うから『川上さんです』言うたら『川上さんてあのまじないの人ですか、川上さんがとられたんですか』言うてえれえ驚かれて、なんでも川上さんはそうとう霊格の高え人で、それがとられる言うのはよっぽどじゃ言うて『正直わしの手には余るけえ今夜はなんとか辛抱してください、明日えらい人を連れて行きますけえ、それまでなんとか』いうて電話を切ろうとするけえ『これからわしらどないすればええんですか』言うたら、『どないもなりません、この話も聞かれとりますけえ、いま川上さんをとったそれがわしの真横におって、今も耳に息がかかるんです、たぶんもうだめじゃ』言うて、それで電話は切られてしもうた。

そがあなの聞いたら皆な震え上がってしもうて、もう一睡もできんのよ。

ほいで案の定、翌日になっても徹さんは来ん。

もうどないなったんかだいたい想像つくじゃろ。

電話切ったすぐ後に家を出て、田んぼに車ごと突っ込んで引っ繰り返って、そのまま重態いう話よ。

結局、徹さんをあんな目にあわしたんはわしらなんよ。

美代子さんなんか大泣きして三郎さんに食って掛かって『こないなきち×い村に来たんが間違いじゃ』言うて村を飛び出して、そっちもそれで行方知れずよ。

実家にも帰らんし村にもおらん。

車も見つからん。

それっきりじゃ。

村は村でまた大ごとよ。

夜明けに犬がえらい鳴きおる思うたらみんな泡吹いて死んどるし、井戸の蓋もずれて落ちとる。

ほいでももう見るん怖いけえ警察に電話して来てもろうたんだけど、警察の人は『中に何もありませんよ』言うちゃって。

恐る恐る見たら川上さんおらんのんよ。

警察の人は『冗談もたいがいにしてください』言うて帰っちゃったけど、こっちももうどうしたらええんかわからんで、川上さんはどこかへ消えてしもうたし、今ではほんまに死んどったんかどうかさえ確かめようがないんじゃけえ。

もうあれは夢じゃったとまで言うひとまでおってで。

それで何日かした後のこと、松野の武さんが見たいう話じゃけど、こげえなでっかい火の玉が川上さんの家の窓から入っていった言うて、その日の晩に誰もおらん家の中から真っ黒い煙が上がって、消防が来る頃にはとっくに川上さんの家は焼けてしもうとった。

もうこうなったらどがあもならんけえ、わしらができるこというたら、川上さんのためにお地蔵さんを立てて、拝むくらいよ。

これでおさまってください言うて手え合わして、ほうでも何でこがあなことになったんかも誰も分からんのんじゃけ、やりようがないんよ。

今でもたまに川上さんを見たいう人が現れおるで、あの黒いのんがまだ歩いとるんじゃろういうて皆な怯えとる。

家に鍵かけて用心して、もう日暮れには誰も表に出んのんで。

あんたもよう気いつけんさいよ。この話い聞いたらもう関わりがないとは言われんのんじゃけえね。

余計なことは絶対にしんさんなよ。

あんたもいつとられんとは限らんのじゃけえ、もうこがあな話には関わらんほうがええ。

談話2

人間にもええ人とわりい人がおられるように、魂にもええ魂とわりい魂がおるんで。

先生は常々言うとられた。

柱にするんならわりいのを柱にせえて。

ほうは言うけどわしは納得できんで『先生、わりい魂じゃええがにならんのじゃないですか』て尋ねてみたんじゃ。

ほしたら先生は言いんさった。

『柱になってしまえば魂にええもわりいもない。それは単なる魂じゃけえ、おんなじものなんじゃ』いうて。

人間は時間がたつといろんなことを忘れていく生きものじゃが、それは魂になっても変わらん。

柱になった魂は、人間じゃったときのことをゆっくりと忘れていって、そのうち安らかな赤ん坊に戻るんじゃと。

ほうで、そっからさらに色んなものが抜けていって、いよいよなんものうなったときに、その魂は神さんになるんじゃ。

わしらの仕事いうんは、そういう神さんを人の手でこしらえる、業の深い仕事なんじゃけえ、いつなんどき逆にとられるか分からんいう覚悟はしとかにゃあいけん。

もともと人じゃったもんをええように使うて、それでただで済む思うとったらえれえ目にあうんよ。

人の恨みつらみはそりゃあ深えんじゃけ。

中途半端に掘り出したら、それこそえれえことよ。

話の通じんただの恨みの塊いうんは、いがんで目も耳もないんじゃ。

お経あげても聞こえんし、お札貼っても見えんのんじゃけえ、ほうなったらもうどがあもならんのんよ。

人の手には負えんのんじゃけ、本物の神さんがおられることを信じて一心に祈るしかないんじゃ。

運良くええがにいったら、村のひとつかふたつ消えて、それで収まるじゃろ。

あとは滅多に人の来んような山の奥でわだかまって、熊じゃの鹿じゃの食うて、そのまま仏さんになってくれる。

わしらにはどうもできんのんじゃけえ、そう思うとくしかないんじゃ。

触らぬ神に祟りなし言うんはほんまよ。

談話3

妙子さん、そういえば最近夜中んなると家の外を歩きおる人がおるんじゃいうて、お父さんに見てもらわにゃあいけん言うとっちゃったよ。

夜毎に歩き回る音がする言うておちおち眠れんで、駐在も見回りは十分するけどお宅だけ特別扱いで夜中中見おるわけにはいかんのじゃ言うたいうて怒っとって、あそこは親父さんが土木の仕事で腕っ節が強いし気性が激しいんよ。

近所でもそりゃあ、あげえなとこに泥棒に入ったら返り討ちじゃ、叩き殺されてしまう言うて笑いおったんで。

いうてもね、あがな田舎の家は広いばっかりで財産なんてろくにありゃあせんのんで。

どこの家もそうじゃ。

じゃけえ別に心配するようなこともないけえ言うとっちゃってじゃけど、ほうじゃ言うても気持ち悪いもんは気持ち悪いし、それにあそこは娘さんが高校生で可愛い盛りじゃけえ、風呂場でも覗かれたらそれこそことじゃいうて。

それであそこの親父さんが夜中に見張りに立っちゃって、見つけて交番に突き出しちゃるんじゃ言うて、それから二日三日は何もなかったんよ。

ほしたらよ、四日目の夜中に庭の玉砂利を踏む音がして、親父さんは不審者じゃ思うて後ろからそろりそろりと近づいて、ざっざざっざ歩きおる人影を物陰から改めて、ぱっと懐中電灯あてちゃったんよ。

そしたら誰じゃった思う。

それが妙子さんなんよ。

親父さんもびっくりしちゃって『お前どしたんじゃ』言うたら、妙子さん空ろな目えをしちゃって、みたまがなんじゃらいうて、あの神主さんの呪文みたいなんがあろう『なんじゃらかしこみもうすもうす』いうて、妙子さんそんな呪文知っとってじゃないんで、それで親父さんもこりゃあただごとじゃあない思うて妙子さんをむりやり家に入れて鍵い掛けて寝かせて、それで朝んなったら妙子さんはけろっとしとってで、夜のことなんて何も覚えとりゃせんのんで。

逆に親父さんに向かって、あんたあ昨日は出よったかいうて聞いてくるありさまで、あんたが寝ぼけとったんじゃいうて、みんな笑うとってで。

妙子さんあんたぼけるにはまだ早ええんじゃないですかいうたら、もう歳なんじゃいうことよねいうて本人も笑うとってで。

いまでもたまに夜にふらふら歩きおるようで、夜中になったらぎしぎしと廊下を歩く音じゃとか庭の土を踏む音じゃとか、最近は親父さんの布団の周りをぐるぐる回るいうて往生しとってじゃけど、もう家のもんも特に害はないけえ、ほっとるそうな。

気味の悪い、おかしな話よね。




 

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