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【怖い話】山に一人で入ると読まれます

   

知り合いの話。

彼はムシャクシャした気分になると、独りで山にこもる癖があった。

その日も彼は一人野営をしていた。

仕事の上で同僚と衝突して、彼は短気を起こして口論になったのだ。

いつものように独り言を呟き始める。

一種の儀式みたいなもので、こうすると冷静に自省できるのだという。

色々と同僚への文句を並べ立てていたが、自分の方にも悪いところがあったのは彼にも分かっていた。

不満をぶちまけた後で

「いや違う、そこは俺が悪かった」

と思い直した時。

真向かいの林の中から、はっきりとした声が聞こえた。

いや、違う。
そこは俺が悪かったのだ。

彼自身の声とまったく同じ声色だった。

その瞬間、悟ったのだという。




彼はそれまで独り言をくり返していたつもりだったのだが、実は彼と同じことを考えている何かと、延々と会話を続けていたのだ。

なぜ、その時まで気がつかなかったのかは分からないが、気がついた途端冷水を浴びせられたような気がしたそうだ。

それきり彼は黙り込み、林の中の声もそれ以上何も言ってこなかったらしい。

以来、彼は短気を起こさなくなった。

頭に血が上っても、あの時の声を思い出すと、自然と冷静になるのだそうだ。

知り合いの話。

彼女は気が強く、山にも一人で出かけることが多かった。

紅葉狩りに行こうと秋の谷へ出かけた時のことだ。

通る人とて無い細い道を歩いていると、木立の奥より物音がした。

覗いてみると、少し先の木陰で、

大きな猿のような背中が樹の根元を掘っていた。

ここで襲われたら逃げられない!

強気な彼女も、その時ばかりは一人でいることに焦ったらしい。

すると、まるで彼女の心を読んだように声がかけられた。

襲わんよ。
わしはこれでも菜食主義者なんでな。

まさか口がきけるとは思わず呆然としていると、それは立ち上がって振り向いた。

大猿の身体に、初老の男性の顔がついていた。

立ちすくむ彼女を残し、それは悠然と歩き去ったという。

その手には、掘り出したばかりの長い山芋を持っていたそうだ。

知り合いの話。

彼のお爺さんは炭焼きをしていたという。

ある寒い夜、窯の前で火の番をしていると、闇の中から声がかけられた。

寒いから、そちらへ行っても良いか。

里の者だろうと思い、いいよと答えると見慣れぬものが姿を現した。

それは大人ほどの大きさで、全身が黒い剛毛で覆われていた。

目鼻さえ見てとれぬ顔を見て、腰を抜かしかけたそうだ。

ああ、やはりそうだ。
お前も俺が醜いと思うのだな!

それは哀しそうにそう叫ぶと、背を向けて山の中へ逃げていった。

お爺さんは終始口を開くことができなかったそうだ。





 

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