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【怖い話】安いアパートの風呂に現れる「それ」に殺されそうになる

      2017/03/14

入社3年目の6月、私は愛知県の営業所へ転勤となり、引っ越しすることになった。

会社が探してくれた2DKのアパートは独り身には広すぎるようにも思えたが、入社以来、狭い寮で生活していた私の目には非常に魅力的に映った。

職場にも近いし家賃も安い。

なにより風呂付きなのが最高だった。

引っ越して何日目かの夜、風呂でシャワーを使って髪を洗っている最中のこと。

水流でぼやけた視界の隅に、一瞬妙なモノが映った。

浴槽の縁に置かれた両の手。

慌てて目を見開いて向き直ったが、手などどこにもない。

『目の錯覚だろう…』

その時は、そうやって自分を納得させた。

しかし、そんな性根をあざ笑うかのように、「それ」はしばしば私の前に姿を見せた。

シャワーを浴びている時、石鹸を置いて振り返る時、洗面器に手を延ばした時。

視線が浴槽を掠めるその一瞬に、私の眼が「それ」を捉える。

浴槽の縁にしがみつく白い手。

半ば反射的に視線を戻しても、次の瞬間には跡形もない。

それでも、回を重ねるうちに

「それ」が子供の手だということに確信するようになった。

1ヶ月ほどたったある休日、私は部屋の整理をしていた。

荷物を収納しようと、備え付けのキャビネットの一番下にある引き出しを開ける。

底に敷かれていた厚紙を引っ張り出すと、その下にあった何かがヒラリと床に落ちた。

拾い上げて見る。

幼稚園児くらいに見える男の子の写真だった。




とっさに風呂場の手を連想し、気味が悪くなったので他のゴミと一緒に捨てた。

その日の夜、テレビを見ていると浴室から何やら物音が聞こえた。

行ってみると、普段は開けっ放しの浴槽の蓋が閉じられている。

開けてみると、冷水が縁ギリギリまで一杯にたまっていた。

夏場はシャワーのみで済ますため、浴槽に湯をためることなど無いはずだった。

考え込みながら水面を眺めるうちに、私の背後にスッと影が立つのが見えた。

肩越しに、髪の長い女の姿─

ドンッ

不意に背中を押され、私は頭から冷水に突っ込んだ。

慌てて持ち上げようとする頭を凄い力で押さえつけられる。

もがいて逃れようとするがビクともしない。

肺から空気が逃げ出していく。

パニックに陥る寸前、私は床を蹴って浴槽に身を躍らせた。

体を回転させると、浴槽の底に手足を突き、全力で体を持ち上げる─

ザバァ───

水面を破って立ち上がると、呼吸を整え、周囲を見渡した。

誰もいない。

風呂場の扉は開いているが、外の様子はうかがい知れない。

風呂場から出る勇気が出ないまま、私は浴槽の中に立ち尽くしていた。

…サワ…

ふくらはぎに何かが触れた。

小さな手にゆっくりと足首を掴まれる感触…

私は悲鳴を上げ、ずぶ濡れのまま浴槽から、風呂場から、アパートから飛び出した。

私が引っ越す前、ここに誰が住んでいたのか?

ここで何があったのか?

大家はそれを語ろうとしなかったし、私も聞こうとは思わなかった。

それから部屋を引き払うまでの約一週間、浴室の扉の前には荷物を一杯に詰めた段ボールを積み上げておいた。





 

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